行き先表示器もLED全盛ですが、消えつつある方向幕が鉄道の雰囲気に合います
列車の行先表示といえば、かつては行先標(サボ)が主流でした。
その後、サボは方向幕(字幕式)に変わり、列車の先頭部に使用されました。
やがて方向幕操作が機械化され、先頭車だけでなく、各車両の側面にも取り付けられるようになると、サボにはない方向幕の楽しみができました。
それぞれの編成が走行する可能性のある全国各地の行先が見られることです。
始発駅で列車が入ってきた後、しばらくホームに佇んでいると方向幕の文字が動き始めます。
東京駅での東海道・山陽新幹線0系、100系全盛期で言えば「ひかり 東京」だった表示が「ひかり 博多」に変わるまでの間、名古屋、新大阪、岡山、広島などの文字を経て博多が出てくる光景です。
究極は12系客車で、全国の県庁所在地の駅を中心として、行先が多彩でした。
とくに、青森の次に西鹿児島(現:鹿児島中央)が続いて表示される瞬間の驚きと喜びは大きいものがありました。
順不同であちこちの地区に飛んでは戻る約70コマの行先。
回送の表示に変える時も見どころでした。
回送の文字は最初又は最後のコマ位置のため、そこに至るまでに各地の行先を見ることができました。
方向幕にも弱みはありました。
新たな行先を追加する時は、幕自体を交換する必要があること。
調子が悪い時、別の行先が表示される場合があること。
日焼けなどで幕が摩耗しやすいこと。
トイレ内に設置の場合、幕を盗難されるケースがあったことなどです。
ホームから行先を見ようとしたら蛍光灯管だった時は虚しい気分でした。
やがてLED式の行先表示器が登場し、方向幕は減っていきました。
LED式は管理がしやすく、新たな行先追加は容易で、フルカラー化もされました。
日本語とローマ字との交互表記も可能で、次の停車駅の表示、終着駅までの途中停車駅も順に流れていくきめ細やかさがあります。
便利なLED式ですが、自分は方向幕に愛着があります。
行先変更の際、方向幕の途中駅を見ていると、それぞれの地域を思い出し、郷愁を感じるからです。
LEDは結論が早すぎます。
到着後、折り返しの行先に一瞬で変わります。
途中のいろいろな行先を見る過程が略されているのです。
たとえて言えばLEDは飛行機のような点と点タイプ、方向幕は途中駅に停車の都度、旅情を感じる鉄道タイプと言えるでしょうか。
沿線から列車を見た時、方向幕は行先が分かります。
夜に列車を見ると連続的な光には美しささえ感じます。
車両基地で列車が休んでいる際、LEDは単なる黒枠ですが、方向幕は回送の文字又は行先が見られます。
そんな方向幕ですが、始発駅で列車進入の際、乗務員が到着前に気を利かせて方向幕を操作してしまっているとがっかりしたものです。
操作は駅到着後に行なってほしいと思ったものでした。
最後に新京成の方向幕について触れます。
全26編成中、方向幕で残っているのは8804・8805・8806・8808・8809・8811の、8800形6編成です。
表示順序は以下のとおりです。
行先の頭に駅番号が表示されますが、ここでは省略します。
回送-試運転-松戸-普通松戸-京成津田沼-普通京成津田沼-新鎌ヶ谷-普通新鎌ヶ谷-くぬぎ山-普通くぬぎ山-新津田沼-普通新津田沼-鎌ヶ谷大仏-普通鎌ヶ谷大仏-高根公団-普通高根公団-八柱-普通八柱-千葉中央-普通千葉中央-ちはら台-普通ちはら台-北習志野-普通北習志野-貸切
松戸から千葉中央に変わるのが見どころです。
なお、「新鎌ヶ谷-普通新鎌ヶ谷」は、以前は「津田沼-普通津田沼」でした。
鎌ヶ谷大仏と高根公団は現在、折り返すことはできなくなりましたが、それでも行先表示文字が動いている間、過去の行先が見られるのも方向幕の希少価値です。
不謹慎な考えかもしれませんが、今の方向幕編成がLED化されずに継続されることを勝手ながら願っています。