長すぎるローマ字、お遊びの愛称名等の風潮を考える
観光列車とは、名前のとおり観光を目的に運行する列車です。
観光列車は、鉄道側にとっては集客力があり注目度、話題性の点でも効果があるため、目玉商品の一つです。
観光列車にはそれぞれ列車愛称がありますが、意味が分かりにくい愛称や、親しみにくい、長すぎる、ローマ字を多用しすぎる列車名も見受けられます。
今回は、多くの観光列車の中から愛称名の個性的な列車を中心に見ていきたいと思います。
◎ JR東日本
〇 TOHOKU EMOTION: EMOTIONは感動、情緒といった意味ですが、ローマ字だけの長い愛称はあまり感心できません。
「東北エモーション」でよいのではないでしょうか。
「東北エモーション」では平凡なので「TOHOKU EMOTION」なのでしょうか。
〇 越乃Shu*Kura:Shu*Kuraは酒蔵で、ShuとKuraの間の「*(アスタリスク)」は米と雪、花を表すということですが、「越乃酒*蔵(しゅ*くら)」がよいのではないかと思います。
〇 東京のローマ字表記(TOKYO)を逆読みした(OYKOT)を、ひらがなで愛称にしました。
流行の「OYKOT」にせず、「おいこっと」とした姿勢には好感が持てます。
〇 BOSO BICYCLE BASE:BOSOは房総、 BICYCLEは自転車、 BASEは基地の意味です。
「TOHOKU EMOTION」と同じ発想ですが、「房総サイクル基地」の方が分かりやすく思います。
◎ JR西日本
〇 ベル・モンターニュ・エ・メール(べるもんた):美しい山と海のフランス語「Belles montagnes et mer」が由来です。
街のレストラン的な愛称ですが、列車名としては長すぎ、公共列車名として親しみにくく、「べるもんた(ベル・モンターニュ・エ・メール)」としてはどうでしょうか。
〇 ラ・マル・ド・ボァ(La Malle de Bois):フランス語で「木製の旅行かばん」の意味です。
これも街のレストラン的愛称です。
岡山から宇野線へ「ラ・マル せとうち」、山陽線へ「ラ・マル しまなみ」、赤穂線へ「ラ・マル 備前長船」、瀬戸大橋線へ「ラ・マル ことひら」の4種別があります。
「ラマル」とは「太陽のように輝く子」」の意味もあるようですが、真実はわかりませんでした。
〇 「〇〇のはなし」:「〇〇」は「まるまる」と読みます。
「〇〇」にその都度、何かの2文字が入るわけではなく、「まるまる」の読み方が正式名称です。
山陰の話、はぎ(萩)の話、長門の話、下関の話など、あれこれ乗客に想像してもらう意味合いでしょうか。
「〇」は、日常使われる「良い」という意味の代名詞的な記号であり、〇〇=良い良い、と好意的に受け止めるだろうということでしょうか。
「はなし」は萩、長門、下関の頭文字からです。
駅構内放送や列車内放送で、「この列車は、まるまるのはなし、です」などと耳にすると、こちらが気恥ずかしくなってきます。
このような意味不明の列車名はあまり感心できません。
〇 SAKU美SAKU楽(さくびさくら):「SAKU」は美しさ、楽しさを「作」る、笑顔・花が「咲く」、その地の美しさや楽しさを探し求める「索」という3つの「SAKU」を取り入れました。
岡山県北エリアに名所として点在する桜をイメージして「SAKU楽(さくら)」。
美しい・楽しい列車と、桜が咲くことを引っ掛けての列車名でしょうか。
〇 etSETOra(エトセトラ):「エトセトラ」は、ラテン語で「その他いろいろ。等々。…など。」という意味があり、「えっと」は、広島弁で、「たくさんの」「多くの」という意味も持ちます。
「たくさんの瀬戸など」「えと瀬戸ら」ということで、お遊びの列車名です。
〇 うみやまむすび:海と山を結ぶ列車という、わかりやすい愛称ですが、海山結びでは平凡なので、あえてひらがなにしたと思われます。
「海山結び」「うみやまむすび」「ウミヤマムスビ」「UMIYAMAMUSUBI」のどれを取るかということで、ひらがなを取ったようにも思われます。
ローマ字の多用よりはよいが、「海・山結び」とすれば誤読はなく、意味も伝わりやすいと考えます。
JR西日本の観光列車は全般的に漢字を使わず、現代的な若者感覚、個性を前面に出した時代変化と流行を感じますが、乱用しすぎと感じます。
◎ JR四国
〇 「志国土佐 時代の夜明けのものがたり」は「志(こころざし)の国と、四国を掛けたことは誰にも分かり、「志国」程度の言葉の遊びは許容範囲でしょう。
〇 「四国まんなか千年ものがたり」は、四国の中央部を走行し、沿線に千年の歴史文化があることによります。
「四国中央千年物語」では感じが多く、堅苦しいことは理解できます。
「伊予灘ものがたり」と合わせたJR四国の「ものがたり」3列車は、JR西日本とは対照的に、いずれも日本語漢字使用の愛称名で好感が持てます。
◎ JR九州
〇 A列車で行こう:Aは、天草、大人(Adult)の頭文字からとのことですが、E(いい)列車同様、A(ええ=良い)列車への引っ掛けもあります。
ジャズのスタンダードナンバーにも同名曲(Take the 'A' Train)があります。
曲の題名としてはともかく、特急列車の愛称としては気品の点で疑問が残ります。
〇 或る列車:「或る」のローマ字「ARU」には、AMAZING「素晴らしい」、 ROYAL「豪華」「素晴らしい」、 UNIVERSAL「世界中」といった意味が込められています。
しかし、語呂からすると、真相を出さない「ある一人の男性」「ある場所で」的な印象も受けます。
〇 36ぷらす3:「36」は九州が世界で36番目に大きい島から。
また、5日間の行程で沿線の35のエピソードを紹介することで、利用者自身で36番目のエピソードを語ってほしいとの願いを込めたとのことです。
「3」は乗客・地域住民・JR九州、「驚き、感動、幸せ」から、36+3=39で「感謝=サンキュー(39)の輪」ということです。
「ぷらす」を「+」にしないのは意図的なもので、足すと読まれないためでもあるでしょうか。
〇 ふたつ星4047:「ふたつ星」は九州の観光の「星」としての佐賀県と長崎県、「4047」は使用車両であるキハ40形・キハ47形からです。
「36ぷらす3」と合わせ、JR九州は数字の謎かけ列車名が好みのようです。
九州7県の「ななつ星」は分かるとしても「36ぷらす3」「ふたつ星4047」は過ぎたるは及ばざるの感もあります。
◎ 私鉄、第三セクター路線
〇 道南いさりび鉄道 ながまれ:道南地域の方言で「ゆっくりして」または「のんびりして」の意味です。
〇 西武 西武 旅するレストラン 52席の至福:編成定員が52人であることから。
「至福」というのは利用者が評価することであって、観光列車とはいえ鉄道側自らがそれを愛称にするのは自慢げにも感じられます。
乗車前に至福感を押し付けられているようで、あまりよい印象を受けません。
〇 南海 めでたいでんしゃ:「加太の鯛」、乗るだけでおめでたい気分になる電車、ずっと乗っていたくなるような愛(め)でたくなるような電車から。
「本日はめでたいでんしゃにご乗車いただき・・・・・」などと聞くと、お遊び、駄洒落、縁起担ぎが過ぎる気もします。
逆に筆者側の包容力、度量が狭すぎるでしょうか。
〇 西鉄 THE RAIL KITCHEN CHIKUGO:西鉄のサイトによると「美味しい食事と、舞台となる地域が連想できるよう、『THE RAIL KITCHEN CHIKUGO』と名づけました。」とあります。
「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」と長いローマ字一色ですが、「レストランカー筑後」では平凡すぎ、人は呼べないということでしょうか。
◎ 総括の感想
現代の風潮を反映してか、ローマ字やカタカナを多用した、あか抜けた傾向が観光列車の愛称に見られ、とくにJR西日本に顕著です。
店名、マンション名、車の銘柄と似た傾向を観光列車名に感じます。
列車名には一定の気品、品格、分かりやすさ、親しみやすさが要件かと思いますが、観光列車の愛称名まで逆にこちらの包容力、度量が狭すぎるのでしょうか。
時代の変化に追従していけない、単なるこちらの老化のせいかと種々考えさせられました。
ここにJR北海道を出さなかったのは、昔ながらの落ち着いた列車名で説明不要の愛称が多いためです。
電化区間は373系、非電化区間はHC85系でという割り切り、そもそも列車とは輸送するものであり、遊びの場の提供ではないという考え方です。
その根底には東海道新幹線という巨大な存在と収入があることは確かでしょう。
JR東海に観光列車が登場するとすれば、リニア全通で東海道新幹線に余裕が生じた時と思われます。
他にも観光列車は多くありますが、今回はこの辺で。
(※今回の記載にあたり、Wikipediaの観光列車の項を中心に参考にさせていただきました。)
※写真は本文と無関係です。