関西線名古屋-奈良の実証運行に向けての課題と解決策を探ります
2023年12月3日付け、鉄道コらム、「関西本線の急行『かすが』が復活する?」を拝見しました。
JR西日本や三重県などの地元自治体が、関西本線の利用促進を目的に11月29日、「関西本線活性化利用促進三重県会議」(以下、「三重県会議」)を開催し、2024年秋に名古屋-奈良を関西本線経由で直通する列車の実証運行を目指すとの内容です。
関西線名古屋-奈良については拙ブログでも2023年8月8日付け、「JR東海の快速『みえ』の関西線版、名古屋-奈良の快速設定効果を考える」で触れさせていただきましたが、今回は名古屋-奈良の実証運行列車について考えてみたいと思います。
過去の記事と重複する箇所がありますが、予めご了承ください。
名古屋-奈良は、亀山でJR東海とJR西日本に分かれているのが痛手で、それが関西線名古屋-奈良の輸送改善をしにくくしていますが、この点は受け止めるしかありませんので、JR東海とJR西日本それぞれの利害を加味しながら、実証運行の具現化を考えます。
過去の記事で、JR東海は自社車両で名古屋-奈良に急行「かすが」を設定した経緯があること、名古屋-鳥羽に快速「みえ」で意欲を見せていることから、その意欲を名古屋-奈良にもJR西日本に設定提案をしたらどうかということ等に触れました。
しかしJR西日本は、JR東海車両の「かすが」が名古屋から奈良に乗り入れながらも、名古屋-奈良の誘導や列車運行に意欲が感じられなかったと感じました。
その結果、JR東海はJR西日本と連携しての名古屋-奈良直通意欲は薄れてしまい、関西線については名古屋-亀山の自社区間専従という結果になったと受け止めました。
名古屋-亀山の電化設備を活かしての電車折り返しで割り切り、非電化の亀山-加茂には無関心になったかのように映ります。
「かすが」用に急行車両を新製投入しながらも利用が伸びなかったことから、もはやJR東海が名古屋-奈良の運行で車両を提供するのは困難と考えられます。
「かすが」の利用者低迷については、JR西日本側の意欲の薄さだけでなく、1往復のみの列車設定、列車存在のPR、沿線での利用促進など、様々な要素が重なった結果ではありますが、JR西日本はJR東海に対して車両使用料を支払うことの負担増の、マイナス面ばかり見ていなかったでしょうか。
名古屋-奈良に需要がないはずはない、急行「かすが」でJR東海と連携して、列車本数を増やして、JR西日本側も「かすが」用の車両を造って相互に乗り入れようという機運がJR西日本にはなかったように感じられます。
列車種別が急行ではなく快速として「みえ」と併結しながら、名古屋から奈良と鳥羽の両方に需要を伸ばしたらどうかというJR東海側との話し合いはなかったでしょうか。
それはJR東海の考えることであって、JR西日本には無関係ということで一蹴したようなことはないでしょうか。
最終的に、名古屋-奈良の需要の伸びには、関西線の設備では限度があると悲観的な面を拡大し、JR東海との調整の億劫さがそこに加わって、単に「かすが」を廃止したまま現在に至っているように思われます。
JR東海の協力が得ることが先決
以上の経過もあって、JR東海にとっては実証運行列車が走っても名古屋-亀山の管轄区間では利点がないと跳ね返される懸念があります。
名古屋-四日市の線路容量に余裕がないことも理由に、実証運行列車については、亀山-奈良での折り返し運行を求めるようにさえ感じます。
三重県会議側がJR東海に参加を呼び掛けたかどうかは不明ですが、今回の三重県会議でJR東海が参画していないのは気になることで、もしも声をかけていたとすればJR東海の実証列車への姿勢を間接的に示しているようにさえ感じられます。
しかしながら、JR西日本区間の亀山-奈良だけの運行では実証運行の意味がなく、三重県会議への参加を県や沿線市町村が一丸となってJR東海に働きかけるほかはありません。
すなわち、名古屋-奈良の関西線利用が促進されることは、同区間133,9キロのうちの59.9キロ、約半分の44.7%の距離をJR東海が担うという路線比率、運行に伴う収支面に理解を求めることです。
実証運行列車の車両はどの形式、どの列車内容か
そもそも車両提供以前の課題として、名古屋-奈良輸送に冷めてしまったJR東海への列車運行自体の協力が先決です。
それが解決したら、次に車両の提供はどちらかということになりますが、結論はJR西日本と考えます。
現在のJR東海は名古屋-奈良の直通運行の協力までが限度であり、車両提供まで求めるのはこの話を破談に招く懸念があります。
JR西日本は亀山-加茂の非電化区間でキハ120形2両編成を中心に細々と運行している印象ですが、この車両運行がもっとも容易であり、現実的です。
次に、JR西日本に多くある、観光用気動車を借り受けることです。
一過性ではありますが、観光列車充当により名古屋-奈良の運行は話題性があります。
敦賀-城崎温泉の「はなあかり」、呉線経由広島-尾道の「etSETOra」、津山線の「SAKU美SAKU楽」、播但・山陰線寺前-浜坂の「うみやまむすび」、山陰線下関-東萩の「〇〇のはなし」、城端線・氷見線「ベル・モンターニュ・エ・メール」などがありますが関西線との距離的、話題的に「はなあかり」がもっとも適当です。
ただしその前に課題があります。
JR東海は観光列車を持たない会社なので、JR西日本の観光車両乗り入れは難しい面がありることです。
すなわち関西線という路線自体が魅力なのであり、車両の魅力での利用促進は本筋でないというのが、今回の関西線に限らずJR東海の観光列車皆無の考え方の根底にあるからです。
観光列車充当で亀山折り返しでは意義がなくなります。
そうなるとキハ120形以外に、JR西日本に適当な車両はあるかということになります。
キハ189系が思いつきますが、余裕はあるでしょうか。
「はなあかり」の充当もあり、余裕はないように思われます。
余裕がないなら「はなあかり」を特定日に何とか充当できないかということになりますが、北陸新幹線敦賀接続の盛り上げがある以上、困難と思われます。
キハ120形で列車内、沿線の盛り上げによる利用促進を
そうなると、現在のキハ120形で名古屋-奈良直通の実証運行列車を設定する方法になりそうです。
ただ単にキハ120形を名古屋まで運行しただけでは効果が望めないと思われます。
名古屋-奈良直通運転の画期性、話題性を列車内、車体ラッピング、沿線各駅での広告宣伝のほか、何よりも沿線での盛り上がりによる利用実績の向上が必要です。
JR四国の「伊予灘ものがたり」は列車内でのサービス設備はJR東海との兼ね合いで難しいとしても、走行する沿線での列車盛り上げなどは好実例の見本として参考になるのではないでしょうか。
キハ120形で車内放送や広告、パンフレット配布等による関西線の魅力、名古屋-奈良直通利便を伝達することはできるはずです。
実証列車を運行したとして、一過性の話題だけではやがて熱は冷めてしまいます。
まずは名古屋-奈良の「かすが」復活を目指す列車設定と乗車実績が不可欠です。
名古屋から奈良への観光日帰りダイヤ、奈良から名古屋へのビジネスダイヤとして、朝夕各1往復の設定が望まれます。
そして名古屋直通の乗車実績により、やがてJR東海からも車両が投入され、JR西日本、JR東海の各所属車両でそれぞれ名古屋-奈良2往復、1日4往復を期待したいところです。
(※ 記載にあたり、2023年12月3日付け、鉄道コらム、「関西本線の急行『かすが』が復活する?」を参考にさせていただきました。)
※写真は本文と無関係です。