平行普通列車

常磐線と新京成に魅せられた者のブログです

JR東日本が吾妻線長野原草津口-大前を交通体系協議の対象に選んだ理由とは?

電化設備、行き止まり区間、観光需要低下、万座・鹿沢口-大前の末端区間の特性等から?

JR東日本が3月22日に、吾妻線長野原草津口-大前の区間について、交通体系に関する協議を群馬県長野原町嬬恋村の3自治体に申し入れたことが話題になっています。

今回は、JR東日本吾妻線の末端側、長野原草津口以遠を、交通体系協議に選んだ背景を考えてみたいと思います。

 

吾妻線渋川-大前55.3キロのうち、長野原草津口-大前は13.3キロで、吾妻線全線の約4分の1を占める距離です。

この吾妻線末端区間の輸送密度(1キロあたりの1日平均利用者数)は2022年度1日平均263人、営業係数では100円の収入を得るために2,759円の経費を要しています。

長野原草津口発着の定期列車は特急を含めて16往復、万座・鹿沢口普通列車のみで10.5往復、大前は4,5往復の状況です。

大前駅は、万座・鹿沢口駅から1駅だけ先に延びた形ですが、なぜ大前駅まで延ばしてその先が延びなかったのかと話題になる終着駅です。

万座・鹿沢口駅は1面1線構造のため、同駅止まりの特急の待避場所として大前駅を引込線的に活用していた経過もあります。

 

年々減り続ける1日あたりの利用者数、4億6300万円の赤字額、営業係数で100円の収入を得るためにかかる2,759円の費用、大量輸送の大量輸送特性を発揮できていない状況から、JR東日本は今回、吾妻線該当区間の沿線自治体に対し、交通体系に関して議論する協議参加を要請したとされています。

しかしながら、同じ状況を抱えている路線や区間は他にもあります。

輸送密度で言えば、500人未満の路線・区間は39区間あって、吾妻線長野原草津口-大前の263人は、利用の低い順としては25番目です。

もっとも低い区間は、陸羽東線鳴子温泉-最上の44人、次いで久留里線久留里-上総亀山の45人、花輪線荒屋新町鹿角花輪55人、山田線上米内-宮古64人の順に続きます。

利用人員だけでなく、営業係数、路線の位置づけ、将来の見通し等、様々な要素を勘案した中で今回、吾妻線が対象になったのでしょうか。

 

電化区間、行き止まり、観光需要減で吾妻線が選ばれたか?

以下は、筆者の想定です。

内容には何の根拠もありませんので予めご了承ください。

 

吾妻線と同じような利用状況や営業収支を抱えている路線や区間が他にもある中で今回、吾妻線を協議参加要請に選定したのはなぜでしょうか。

一つ考えられることは、電化路線(電化区間)ということです。

すなわち電化設備の維持管理費用分によって、他の路線よりも増加しているということです。

 

1日に利用者数500人未満の区間のうち、電化されている区間に特定して状況を見てみます。

19位の大糸線白馬-南小谷188人、 24位の奥羽本線新庄-湯沢262人、25位の吾妻線長野原草津口-大前263人、37位の中央本線辰野-塩尻433人、38位の弥彦線弥彦-吉田442人があります。

 

上記5つの電化路線(電化区間)の中で、吾妻線が選ばれたのはなぜでしょうか。

今回、選ばれなかった路線の状況を以下、想定してみます。

 

19位の大糸線白馬-南小谷188人については、南小谷糸魚川JR西日本区間が絡んでいるほか、JR西日本南小谷糸魚川の将来について検討していること。

24位の奥羽本線新庄-湯沢262人については、山形新幹線との接続路線であり、山形-秋田連絡の動脈であること。

37位の中央本線辰野-塩尻433人については、岡谷-辰野-塩尻で見た場合、岡谷-辰野が実質的にJR東海飯田線延長区間的な性格になっており、岡谷-辰野の将来性と併せて将来を考える必要があること。

また、大糸線信濃大町または白馬-南小谷とともに、電化設備の撤去、小海線気動車との一体運用も考えられること。

38位の弥彦線弥彦-吉田442人については、吉田-東三条区間との関連性や、上越新幹線燕三条駅から弥彦方面、弥彦山観光等の考慮が必要なこと。

 

以上に対して、吾妻線長野原草津口-大前は、万座・鹿沢口-軽井沢の連絡バス以外は、万座・鹿沢口からの観光輸送の特別位置づけが薄れ、さらに万座・鹿沢口まで運行していた特急が長野原草津口止まりとなったことが、万座・鹿沢口駅の乗降客の減少、長野原草津口万座・鹿沢口の利用減少との悪循環になっていったと想定します。

 

吾妻線長野原草津口-大前を交通体系に関する協議対象とした理由を総合すると

JR東日本吾妻線長野原草津口-大前を協議対象に選んだ拝啓を再度整理します。

〇 行き止まりの区間であること。

〇 電化しているため、電化設備の維持管理が伴うこと。

〇 万座・鹿沢口までの特急の観光利用が見込めなくなったこと。(2016年3月を持って特急「草津」の万座・鹿沢口発着を終了)

〇 万座・鹿沢口-大前の利用がとくに低いこと。

〇 万座・鹿沢口-大前の区間だけの将来性議論では、長野原草津口-大前の本質的な解決にならないこと。

〇 長野原草津口-大前を非電化として気動車に置き換えても、渋川-長野原草津口側の電車運用と分けることになり、車両運用として非効率なこと。

〇 吾妻線全線を非電化にすることは、特急「草津・四万」への影響等もあり、現段階では考えられないこと。

〇 吾妻線で今後も電化設備を維持継続していくには、渋川-長野原草津口までが適当であること。

〇 仮に、長野原草津口-大前の協議がまとまらない場合、万座・鹿沢口-大前3.1キロの区間を対象に個別議論する可能性も考えられること。

ちなみに、終着駅の1駅手前までは割合、乗降があっても、終着駅の乗降が極端に少ない場合、末端の1駅区間だけを廃止した路線は全国各地、過去にいくつか事例が見られました。

 

以上を総合すると電化設備、行き止まり区間、観光利用客の減少、今後の利用状況の見通し等を総合的に勘案して、今回の吾妻線が協議対象選定に至ったのではないかと考えますが、いかがでしょうか。

 

(※ 記載にあたり、旅行総合研究所タビリス、2024年3月23日付け「JR東日本吾妻線の「あり方協議」要請。長野原草津口~大前、廃止議論も」、2023年7月11日付け「7線区が『1,000以下』に陥落。JR東日本2022年度輸送密度の研究【1】」を参考にさせていただきました。)

 

※写真は本文と無関係です。