JR西日本特有の先頭車形状と全駅ホームドア設置困難事情がある
近鉄が2023年7月19日のニュースリリースで、車内防犯カメラの全車両設置を発表しました。
意外だったのは、運転室のある車両が中間に連結して運用する際の連結部からの線路転落防止のため、車両先頭部に転落防止幌(以下、「先頭車転落防止幌」)設置が盛り込まれたことです。
転落防止幌は運転台のない中間車の設置が中心で、先頭車同士の連結部は設置してきませんでしたが、JR西日本の事例も参考に設置を決定したと思われます。
今回は、運転台のある車両先頭部に設置する先頭車転落防止幌の話です。
先頭車転落防止幌設置の経緯
運転台の正面は列車の顔ですが、中間車位置になることも想定して先頭車転落防止幌を設置するのは列車の品格、印象を低下させることは避けられません。
それでもJR西日本が採用したのは、2010年12月の山陽・東海道線姫路始発米原行き電車で、舞子で下車した乗客が先頭車同士の連結位置から線路に転落した事故がきっかけでした。
通常の中間車から降りていたらこの転落事故は防止できたと思われました。
JR西日本はこの転落事故を機に、先頭車同士が中間に連結される車両に先頭車転落防止幌を設置する方向としました。
221・223・225・227・521系の各形式に採用されています。
特急列車などで先頭車同士が連結の場合は前照灯の終日点灯や転落注意喚起の放送を流すなど、転落防止に努めています。
そのため、JR西日本以外の鉄道会社では採用しておらず、今回の近鉄の発表は予想外でした。
近鉄の先頭車転落防止幌設置はJR西日本同様、先頭車同士の中間車位置への連結があることで列車外観よりも安全を優先しての判断と思われます。
また、駅数が多く、乗降人員にも差が大きいため、ホームドア設置が遅れがちなことも背景にあるかと思われます。
JR東日本首都圏の状況を見る
JR西日本、近鉄以外では先頭車転落防止幌の設置まではしないようで、この話題はありません。
JR東日本は、2031 年度末頃までに東京圏在来線の主要路線 330 駅 758 番線にホームドアを導入する目標としています。
ホームドア設置によって先頭車相互間の転落も自ずと無くなる見識と思われます。
ホームドア整備は東京を起点として、東海道線平塚、横須賀線逗子、中央線高尾、青梅線拝島、東北・高崎線大宮、川越線川越、常磐線取手、総武線千葉、京葉線蘇我までの範囲内と、成田線空港第2ビル、成田空港駅です。
鶴見線、南武線浜川崎支線、八高線・川越線八王子-高麗川-川越は除きます。
山手線、京浜東北線、埼京線、中央総武緩行線、南武線、横浜線、武蔵野線の電車についてはこの範囲内での運用であり、中間に運転台のない固定編成です。
これ以外の電車は、ホームドア整備区間外を走行することがあるほか、先頭車同士の中間車位置のケースがあります。
中央快速線と京葉線10両編成の場合、6両と4両の組み合わせ編成(中央快速は今後8両+4両)があります。
中央快速線は高尾以西へ、京葉線は東金線直通を考慮して、一部編成が6両+4両編成で組成しています。
東海道線、東北線、高崎線、常磐快速線の15両編成は10両+5両、横須賀線、総武快速線は11両+4両での組成です。
JR西日本特有の先頭車流線形型の形状
ホームドア設置区間外の運用がある中で、先頭車同士の転落事故対策はしないのかといえば、連結部分で発生する空間面積がJR西日本よりも小さいことが挙げられます。
転落事故が起きないほどの狭さではないものの、先頭部の形状が違います。
JR西日本は連結部位置から見ると天井の位置はかなり内側であり、先頭部窓ガラスは斜めの角度です。
JR東日本は線路とほぼ直角で、中間車と比べても差異が小さくなっています。
JR西日本221・223系等での先頭車同士の連結時はかなり広い面積が生まれ、幌設置も理解できます。
一方、JR東日本のE231・E233・E235・E531系の各形式の連結時の面積は221・223系よりも小さいのは確かです。
東急ではホームドアの整備完了により、中間車の幌さえも撤去しており、他の鉄道路線も東急と同じ姿勢になるかと思います。
何となくですが、コロナ禍終了後の、余剰となったアクリル板と連結幌の今後の顛末が重なりました。
近鉄以外の関西等の大手私鉄も今後、ホームドア整備が進んで行くこと、先頭車同士の中間連結が少ないこと、先頭車の形状がJR西日本車ほどでないことは同じと思われます。
先頭車転落防止幌はJR西日本の安全思想であるとともに、特有の流線形的な形状の結果であり、ホームドア整備に時間を要すること、ホームドア設置区間以外の走行等を総合的に考慮した上での産物とも言えそうです。
JR西日本と近鉄の姿勢は、外観上の美観の前に安全性最優先の結果と受け止めます。