今さら?の健康増進による車内喫煙ルーム廃止までにどのような経過があったか
2023年10月17日付けのニュースでJR東海、JR西日本、JR九州の3社が近年の健康増進志向の高まりや喫煙率の低下を踏まえ、2024年春をもって車内の喫煙ルームをすべて廃止し、同ルームには災害等への対応力強化として非常用飲料水を配備する旨、公表しました。
反面、健康増進法による鉄道各社の受動喫煙防止義務を負うこと自体は2003年からのことで、健康増進志向の高まりを持ち出すのも今さらながらという感もあります。
今回は、車内喫煙ルームの廃止について考えてみました。
なお、便宜上、R東海の公表文面で話を進めます。
毎回のことですが、本文内容は筆者の勝手な推測によるものですので予めご了承ください。
非常用飲料水の搭載について
JR東海の公表部分で「車内に非常用の飲料水を配備し、万が一、駅以外の場所で長時間停車せざるを得ない状況になった場合等でも、より迅速にお客様にお配りできるようにすることで、災害等への対応力を強化します。」とあります。
この点について、日刊スポーツ2023年10月18日の記事の中で、あるTV番組内で解説していた部分を引用させていただきます。
(以下引用)
「車内販売がなくなったことが関係していて、車内販売はいざというときに、水の供給とかの役割も果たしていたんですって。これがないと、水を置かなきゃいけないと。水置き場がないから、それで喫煙ルームがターゲットになった」と解説した。
(以上引用)
この話により、車内販売廃止による緊急時の飲料提供が必要になった → 適当な置き場所がない → 喫煙ルームに置くしかない → ただしそれを前面に出すと愛煙家からの反発がある → 車内販売を存続すればよいとの話が再燃する → 近年の健康増進志向の高まりや喫煙率の低下を踏まえたということで公表
以上のような流れが見えてきます。
車内販売が継続していたならば今回の喫煙ルーム廃止の話はなかったのか、それとは無関係で健康増進により、どちらにしても喫煙ルームを来春廃止の方向だったのかということです。
鶏と卵、どちらが先か
どちらかと言えば前者、車内販売廃止の話が先にあると思われます。
一方、車内販売を行なっていない列車は全国各地にあります。
とくに車内販売のない新幹線列車が緊急時に備え、全列車内に飲料確保を行なっているとも思えません。
その中で東海道・山陽・九州新幹線が緊急時の飲料確保を謳ったのは、列車本数、利用者の多さによる影響の大きさ、長時間停車時の飲料提供の課題に際し、車内販売廃止の絡みがあることは理解できます。
別の見方として、喫煙ルームの廃止を決定し、その空間をどのように活用するかを考えたものの、なかなか最良案が浮かばず、災害等への対応力強化をお題目に、車内に非常用の飲料水を配備することとしたのではないかとも感じます。
非常用飲料水配備自体が悪いことではありませんが、ほかに適切な活用法がないまま公表のタイムリミットが来てしまったような苦しさがあるのではないかとの、うがった見方もされます。
喫煙ルーム廃止が先か、飲料水保管が先か、車内販売廃止事情か、相互に絡み合いますが、健康増進策、喫煙率低下傾向は以前から承知されていることです。
車内販売廃止とのタイミングも一致するため、飲料補給場所としての喫煙ルームへのターゲットによる健康増進の話への転嫁という鉄道側の苦しい事情はありそうです。
列車内での気分転換場所としての活用法は
喫煙ルームを廃止するならそのまま同ルーム内の一部を改造し、座席空間とは別に、乗客の気分転換の空間として扱ってはどうかとの考えも出てきます。
しかし息抜き場所としての空間活用では、喫煙ルームのままでもよいではないかとの議論が再燃するためできなかったとも考えられます。
駅の喫煙コーナーの継続
JR 西日本では新幹線列車内の喫煙ルームのほか、新倉敷・新尾道・三原・東広島・新岩国・徳山・厚狭・新下関の各駅の喫煙コーナー廃止を公表しました。
JR東海とJR九州では、駅の喫煙コーナーは継続するようです。
またJR西日本でも上記以外の駅での喫煙コーナー廃止、JR東海管轄の新大阪を除く山陽新幹線全駅での喫煙コーナー廃止までは触れていません。
利用が多い駅では懸念があると思われます。
健康増進志向の高まりを謳いながらも、今回は列車内だけを重要視し、駅での増進志向は保留するのでしょうか。
煙が列車内にこもる喫煙ルームと、煙が室外へ出ていく駅の喫煙コーナーとの違いによるものでしょうか。
言い換えれば列車内という閉じ込められた環境と、外(地上)へ任意に出られる駅ホームの自由度との違いでしょうか。
健康増進を謳うなら駅という公共場所、大勢の人が集中する駅でも同時に実践する方が自然に思われます。
一部、発言力の強い喫煙者からの苦情を避け、駅での喫煙場所継続による列車内全面禁煙へのフォローにしているようにも感じます。
清掃作業員事情の話
旅行総合研究所「タビリス」の2023年10月18日記事、「新幹線『喫煙ルーム廃止』に覚えた違和感。新型車両につけたのに」の中の、「清掃員の負担軽減策?」の項から引用させていただきます。
(以下引用)
考えられるとすれば、清掃の手間を減らす目的でしょうか。喫煙ルームの清掃は客室清掃に比べ手間がかかりますし、清掃員が非喫煙者の場合、喫煙ルームの清掃は好まれません。
人手不足のおり、清掃員の人員確保に懸念があるのかもしれません。であれば、清掃業務量を削減して、非喫煙者のスタッフの負担を軽減することが、喫煙ルーム廃止の理由の一つの可能性もありそうです。
(以上引用)
たしかに清掃作業員の人員確保、業務量軽減、好まれない喫煙ルーム政争の事情はあると考えられます。
喫煙所の匂いが体質的に受け入れられない人が今後増える懸念もありそうです。
対航空機競争と東北新幹線の違い
また、同記事の「対航空機競争で」の項では、喫煙ルームを設置してきた事情、経過について触れており、同様に引用させていただきます。
(以下引用)
喫煙ルームが設置された背景として、東海道・山陽新幹線の利用者は男性のビジネス客の割合が高く、利用者の喫煙率が高かったことが挙げられます。
~中略~
対航空機の競争という事情もありました。東海道・山陽新幹線は、首都圏から対中国・四国地方で航空機と激しく競合しています。早い段階で禁煙化が進んだ航空機に対し、喫煙が可能であることを、新幹線の一つのセールスポイントに据えたわけです。
(以下引用)
長い移動時間で喫煙できないなら航空機という選択対策の一環として、喫煙ルームを設置してきたことは指摘のとおりです。
東海道・山陽・九州新幹線と走行距離、乗車時間は異なりますが、JR東日本は東北新幹線で全面禁煙としました。
喫煙者からの苦情は承知の上で、健康増進面を前面に出し、航空機転移については割り切った選択をしました。
喫煙ルームがない分、列車内の空間は座席として有効に使われているとの見方もできます。
東海道・山陽新幹線では今後の新製車両においても、飲料保管場所としての活用となり、3・10・15号車3か所の喫煙ルーム部分を1列分の座席増に変えることはできません。
トイレ内喫煙
トイレ喫煙についてもタビリスで指摘されていますが、その防止策に決定的なものはなく、個人の良識に任せている状況です。
火災防止上、トイレ内での機器反応により非常(緊急)呼び出し装置が帰納してしまう可能性はないのでしょうか。
トイレ内で喫煙している人は既にそのことを承知済みと思われます。
暫定策として万一、それが機能した場合は社会問題、賠償責任問題に発展すること、トイレ内の喫煙は禁止を目立たせた警告書貼付も必要かと思われます。
「サンライズ出雲・瀬戸」と近鉄特急に残る喫煙場所
「サンライズ出雲・瀬戸」では一部の個室内で引き続き喫煙が可能です。
東海道・山陽・九州新幹線での喫煙ルーム廃止により今後、どのような影響、変化が出てくるか、割り切って継続するかについても注目されます。
(※ 記載にあたり、日刊スポーツ2023年10月18日の記事及び旅行総合研究所『タビリス』の2023年10月18日「新幹線『喫煙ルーム廃止』に覚えた違和感。新型車両につけたのに」を参考にさせていただきました。)